0.05パーセントという狭き門「範士」に選出 ~本村昌克範士八段の“松戸弓道ビジョン”とは
更新日:2025年6月20日
本村昌克範士八段の今と“松戸の弓道”の将来
千葉県内でも有数の弓道強豪校が揃う松戸市。2022年には県内で初めての「全国高等学校弓道選抜大会・団体戦」で優勝を果たすなど、全国的に活躍する選手を輩出しています。実は、学生以外にも松戸市で活躍する射手がいます。それが、昨年11月に全日本弓道連盟が定める弓道最高位称号である「範士」となった本村昌克(もとむらまさかつ)八段です。ここ松戸市で40年以上弓道とともに生き、生涯現役を貫きながら、学生への指導など後継者育成にも尽力する本村昌克範士八段の今と、“松戸の弓道”の将来についてお話を伺いました。
※この記事の情報は、2025年6月現在のものです。
0.05パーセントという狭き弓道最高位称号
本村昌克範士八段
弓道では、全日本弓道連盟が定める審査規定により級位(一級~五級)・段位(初段~十段)とレベル分けされています。高段者のうち、後輩指導や弓道普及への尽力、人柄や教養も備わった人が段位とは別に称号を得ることができ、錬士→教士→範士と称号も昇格していきます。
本村範士八段が得た「範士」は推薦で選抜され、教士の称号を持ち、経験や指導実績、倫理的な評価など、弓道界における模範となる人物に与えられる弓道最高位称号で、全国で70名ほどが選ばれています。
日本国内の弓道人口は約14万人。その中で弓道最高位「範士」は、弓道人口全体のなかの0.05パーセントという狭き門を通過した射手で、千葉県内では、本村範士八段を含めて3人が務めています。
きっかけは、父が弓道をしていたこと
「範士」の称号を得るほどの活躍をする本村範士八段の弓道を始めるきっかけは父の影響だったそうです。
「父が弓を引いていたということもあって、高校1年生のときに弓道を始めました。弓道は、歳を重ねてもいつでも同じ気持ちで弓を引けるという、生涯現役を貫ける武道であることがいいですね」。
射手が陥りやすい病気に悩んだ時期もあったが、今でもいい射が出せたときは嬉しい
そう話す本村範士八段ですが、弓道人生を始めて間もなく、射手が最も陥りやすい病気「早気」に悩まされたと言います。
「高校3年生のときに早気になりました。高校2年のときに、高校総体に北海道代表として出場する機会を得たのですが、準決勝で負けてしまいました。そこから『中てたい』『中てたい』という気持ちだけが早まってしまい、早気に陥りました」。
弓道で経験する早気とは、意図するタイミングより早く矢を放ってしまう“症状”です。弓道には、射法八節(足踏み→胴造り→弓構え→打起し→引分け→会→離れ→残心)という8つの連なる動作で的中へとつなげます。早気は、この「会」を保てず、気持ちが早まり弓を放ってしまう“癖”です。
早気を直したくて、大学でも弓道を続けたと言う本村範士八段。「これまで弓道とともに歳を重ねてきて、“心を澄ます”ことができてきていると思いますが、未だに進歩していないとも感じます」と、更なる高みを見つめます。「心技体を整えて弓を引いても、どうしても力んでしまい凝り固まってしまうこともあります。それでもいい射が出せたときは、今でも非常に気持ちがいいですし、嬉しいですね」と凛々しくも柔らかな表情で話してくれました。
誠を尽くせば散ることに恐れはない
高校卒業後は北海道大学に入学し、化学を専攻しながら弓道部に所属していた本村範士八段ですが、弓道は自身が学生時代に学んできたことと重なる部分があると話します。特に思い入れのある教えを伺うと「大学時代、高畠太郎先生の『堅固な意思(発心)だから誠を尽くせば散ることに恐れはない』という教えに、意を強く持つことができました。私の専攻は化学で、試験管に入れた“濁ったもの”を静かに待って沈殿させていくという時間と、弓道の“心を澄ませる”とき(「会」の心境)が重なります。試験管の先が、的の先が見通せるようになるところまで、時間をかける。その時間が、私はすごく好きです」と教えてくれました。
礼記射義「己に勝つ者を怨みず」
仕事や家庭、暮らしにも弓道精神の支えがあったと言う本村範士八段。その根底には、弓道の「礼記射義」という教えがあると言います。この礼記射義には、儒教の教え「礼記」に記された、弓を射る際の礼儀や作法、精神的な内面を指します。
【礼記射義】
射は、進退周還必ず礼に中り、内志正しく 外体直くして、 然る後に弓矢を持ること審固なり。弓矢を持ること審固にして、然る後に以って中ると言うべし。これ以って徳行を観るべし。射は仁の道なり。射は正しきを己に求む。己正しくして而して後発す。発して中らざるときは、則ち己に勝つ者を怨みず。反ってこれを己に求むるのみ。
本村範士八段は「私はこの『己に勝つ者を怨みず』というポジティブな教えが心身にすんなり入り、自分にも、後継者にも心技体で常に共有するように心がけています」と話します。
学生を指導、子どもたちの成長が嬉しい。
2012年から、学生の指導者としても活動をしている本村範士八段。弓道強豪として知られる松戸市立第六中学校(以下、「松戸六中」)弓道部でも指導をしています。
(左から)松浦陽次教士六段、本村昌克範士八段、真田ルミ教士六段
「当時顧問を務められていた真田ルミ(さなだるみ)教士六段の後任として、松戸六中の生徒たちの指導を長く担当しています。中学生たちが大人になったときに、再び弓道を始めたいと思ってもらえればという想いで指導しています。中学、高校と、大人になるにつれて礼儀などを身につけて成長していく姿を見られることが嬉しいです。活躍している生徒が増えてきているのも、喜ばしいことですね。これからも輝かしい実績を積んでもらえるよう、指導は続けていきたいです」と後進の育成についても力強く話してくれました。
安心・安全に弓道が楽しめる環境整備を
学生の弓道の指導にも従事する本村範士八段。近年は、中高生からの弓道人気が高まっていると話します。
「アニメで注目されていることもあり、弓道が中学生に人気で、今年は松戸六中の弓道部への見学者が60人を超え、入部を決めた生徒は29人になりました。喜ばしい反面、生徒たちが充分に練習するためにも、松戸市内にバスケットコートくらいの広さの弓道場を作れたらと思っています。松戸市には、松戸六中と松戸市立栗ケ沢中学校の2校に弓道部がありますが、中学校を卒業して、大人になっても安心・安全に稽古ができる場を整えていく必要があると考えています」。
本村先生は、見習うべき存在
今回範士に選ばれたことに「光栄でありながらも、緊張や大きな責任を感じている」と話す本村範士八段。道場内ではどのような存在なのか、松浦陽次(まつうらようじ)教士六段(松戸市弓道連盟会長)に伺うと「本村先生の強みは、どのような時も絶対に手を抜かないこと。その姿勢が素晴らしく、ぜひ見習っていきたいと思っています」と話してくれました。また、本村範士八段と長くともに弓道をしてきた真田教士六段は、人柄について「自分の引いた矢を取りに行ったり掃除をしたりと、偉ぶることがない方で、大先生であることを忘れてしまうくらいです。そんな姿を見て私たちもついていこうと思いますし、先生のそばにいられて幸せです」と目を細めます。
松戸運動公園で練習されている松戸市弓道連盟の皆さん
正しく弓道を伝承、四方正面の姿を示す
「萬法帰一」という書が掲げられた松戸運動公園弓道場で弓を引く本村範士八段。ピンと張り詰めた空気と、凛と澄んだ心持ちで放たれる矢は、その姿を見ている人にも、その凛とした空気が伝わってきます。
0.05パーセントという狭き門の範士の称号を得た本村範士八段は、最後にこう語ります。「私にとって弓道は、人生そのものです。弓道は、自分自身と向き合うこと。これからも、体をいたわりながら一生続けていきたいです」。
5弁のライラック(画像提供:本村さん)
<プロフィール>
本村昌克(もとむら まさかつ)
1946年、北海道生まれ。松戸市に40年以上在住。
2024年11月に弓道の最高位である「範士」に選ばれた。
【最近の嬉しかったこと】
自宅で育てているライラックに5弁の花をみつけたこと。
「札幌市の木ライラック。5弁の花を見つけると幸せになれるそうです。おすそわけです(本村さん)」
【松戸市でおすすめのお店】
ラーメン美春(松戸市上本郷)
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