令和2年度教育施策方針
更新日:2020年2月25日
令和2年2月25日、松戸市議会3月定例会本会議で教育長が発表した教育施策方針です。
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教育長の視点
急速に進展した少子高齢化の中で、全国的に多くの課題が議論され、行政施策が検討、実施されています。
その中で松戸市が、全国1,724自治体の中でも30番台の人口規模を維持し、加えて多種多様な人々と文化が流入しているという首都圏周縁部の特異な自治体であるということをしっかり意識し、子育て・教育・文化の分野に山積する課題に対処することが必要です。
その中でも学校教育で最も大きな課題は、児童生徒の「学力の向上」です。昨秋、PISA(国際学習到達度調査)2018の結果を、日本のメディアが「読力の低下」と大きく報じました。確かに8位から15位は低下ですが、参加79の国と地域の中では依然として上位です。しかし、PISAの「Reading Literacy」は、日本語で言う「読解力」ではなく「Critical Thinking(批判的思考力)」を問題としており、確かに日本はその分野は弱いということです。
PISAは、世界の変化を読み、生きる力として何が必要かを問う調査であり、OECD(経済協力開発機構)は、そのCritical Thinking等の能力が、未来を生きるためのキーワードの一つと考え、調査しているわけです。
さて、そのキーワードにも対応した学習指導要領が、この4月から2030年までをスパンとして、小学校で全面実施となります。私は、今後10年間の状況変化に備えて、児童生徒の「学力」を保証し充実した学校生活を送ってもらうという、広い意味でのSafety Netを如何に構築するか、が教育行政に携わる者の責務であると考えます。一般的に使用されるセーフティネットという用語の範疇ではなく、未来に向けた幅広いSafety Netの議論を始める必要があると考えています。私たちの行動一つひとつが、想定不能な将来に向けてのSafety Netでなければなりません。
Safety Net構築には、今までの「知識・技術の獲得」から「資質・能力の育成」へ、という大きな意識転換を図り、生涯学習・学校教育に取り組んでいかなければなりません。
これは、日本教育界の一大転換であり、そのためには、学校教育での授業改善が必要で、松戸市では独自に「授業の在り方」を明確にして、教員に示す予定です。これは、松戸市教育委員会(市教委)初の試みです。
次の課題として、幼児教育・家庭教育の質の向上があります。松戸市は、共働き家庭が多くなりつつあり、共働き世代の子育て支援や、教育の質の向上が喫緊の課題です。市教委では、4年前から幼児家庭教育の重要性を訴え、脳科学者の川島隆太氏を顧問として「松戸市版 幼児家庭教育パンフレット」を作成し、マイナス1才児からの家庭教育の啓発活動に努めています。
しかしながら、ご存知のように、貧困や幼児虐待など家庭における子育ての課題が深刻になってきています。子ども部等との連携により、対策を練り上げていく必要があります。
その背景や基盤となり、また自治体の質の一部を決めるのは、地域の教育力であり、文化力であると思います。その力が地域コミュニティを作り、子どもたちを自立した市民へと育てると確信しています。日本では、昔からみんなで子育てをしてきました。子育て・教育は、できるだけ多くの大人が子どもたちに関わるような仕組を作ることが必要なのです。
一方で、引きこもり、不登校が大きな社会問題になっています。日本では、いわゆる教育の機会確保法が施行され、松戸市でも夜間中学を開設しましたが、もっと広い視野で、この問題の解決に取り組んでいく必要があります。
また、「いじめ防止対策」についても、各学校も含めてその対策には手を尽くしているところです。来年度に向けては、他市との連携も視野に更なる対策を模索しています。
人が集まれば、人間関係のトラブルは生じます。人間ですから、いじめはなくなりません。大事なことは、できるだけ起きないようにし、できるだけ小さなうちに芽を摘み、事後対応をできるだけ速やかで丁寧に進めるなどです。そのために、複雑で膨大な事例を、例えばAIによる分析などで、より効果的な対策を打てるように努力したいと考えます。
貧困や虐待、引きこもり、不登校そしていじめ等を考えると、一つの組織だけでは解決困難です。施策を進めるにあたって、福祉との連携は元より、より多くの組織との連携、更に組織の再編、機構改革まで進める必要性が強くなっていると感じます。市教委というよりも、自治体行政全体で何ができるか、という姿勢で取り組まなければなりません。
2030年を見据えた「(仮称)学びの松戸モデル」について
このような取り組みを前にして、教育行政そのものも「改革的」な取り組みが必要であると考えます。
昨今の教育課題には社会全体に深く関わるものも多くあり、新たな課題の発生も予想されます。そのような、多方面より数多く打ち寄せる大きな「うねり」の中でも、進みゆく方向を示す「羅針盤」が必要であると考えます。
そこで、市教委全体で取り組む「(仮称)学びの松戸モデル」を、現在策定中の市総合計画と同様、令和3年度から実施するための準備を進めています。これは、2030年を見据えた松戸の教育のあり方を考えていく過程で、今後予想される様々な教育課題に、生涯学習の視点で取り組み、自立した市民を育むための施策の基本的な指針となるものです。学校・家庭・地域・関係機関の相互の関わりの中で、児童生徒を含む市民がそれぞれのライフステージに応じた学びを実現し、学びの成果を循環させることで高め合い、将来に向けた社会変化に対応する「生きる力」を育めるよう支援してまいります。
新年度の施策
それでは、新年度の施策についてお話をいたします。
実践で力を発揮できる教職員の育成
学校教育では、まず、ベテラン教員の大量退職や若手教員の急増に伴う、人材育成が喫緊の課題となっています。一方、新学習指導要領では、今までの「何を学ぶか」ということだけでなく、「何ができるようになるか」という資質・能力の育成を目指し、「どのように学ぶか」という、「主体的・対話的で深い学び」の授業改善が求められています。
このため、全ての教職員に学び続ける姿勢を持たせ、実践的指導力のある教員を育成できるよう、キャリアステージに応じた研修を充実させるとともに、市独自の「単元カリキュラム(案)」を基にした授業改善に努めます。
学力向上への取り組み
学力向上に関しましては、中学校区単位での小中学校間の連携を深めながら、次の3点を中心に取り組みます。
第一に、本市小中一貫教育の柱である言語活用科のカリキュラムを工夫し、「新言語活用科」にリニューアルします。言語活用科のスタートを小学校1年生からとして、日本語と英語の両輪で義務教育9年間を通した“ことばのトレーニング”を行うとともに、全小学生にワークブックを配付して、履修の徹底を図ります。
更に、市立高校では独自の教科「言語活用」科を設置して、市内小中学校での学びを活かしてまいります。
また英語分野では、小学校低学年において「ジョリーフォニックス」の取り組みを進め、中学校では英語を母国語としない人への教授法である「TESOL」を更に推進して、本市の英語教育に厚みを加えます。そのために、平成30年度に続き小中高校の教諭10名による海外派遣研修を行い、「TESOL」を習得した教員の増員を図ります。派遣された教員は、前回同様帰国後授業改善のためのワークショップや授業研究等を通して成果を広め、英語の授業改革に寄与します。
第二に、言葉の学習に視覚化や動作化を取り入れた教授法である「MIM」について、これまでの小学校2校での先行研究を11校に広げ、読みの躓きを克服し、ひらがなの学習を効果的に進めます。
第三に、ICT環境整備に更に努め、機器を効果的に活用して学習が進められるよう、教員の指導力の向上を図ります。
特別支援教育の充実
来年度、特別支援教育の充実と児童・生徒の通学の利便性向上のため、知的障害特別支援学級を小学校3校・中学校1校に、自閉症・情緒障害特別支援学級を小学校4校・中学校3校に、設置する予定で、設置率は90.8%となります。今後も100%を目標に、計画的に増設してまいります。
また、インクルーシブ教育システム構築に向けて、巡回指導員の派遣や研修会の実施、マニュアルの作成・配付等による、学校の支援体制の強化と教員の指導力向上を図ります。
更に、特別支援教育補助教員等の配置により、個々の教育的ニーズへの対応や個別支援の充実を図るよう努めます。そして、切れ目のない支援体制の確立に向け、就学前の児童に対しても心理相談員・児童観察員による就学相談を行います。
魅力ある市立高校創り
本年度から単位制への移行を開始した市立高校では、生徒の興味・関心や進路希望等に応じた多様な科目が選択できる教育課程を通して、「市松改革」1期生が自らキャンバスに描いた夢実現のために、主体的・対話的に学びを深めていくこととなります。
また、千葉大学等の連携大学とのを関係を深め、大学教授・学生等を招いた講演・研修などを実施し、生徒の学びを高めるとともに、職員の授業力の向上を図ります。
更に、放課後や土曜日に教室で予備校講師による講座を来年度も引き続き実施し、大学進学サポート体制を充実させます。
教育資源の再構築
冒頭述べましたように、首都圏周縁部に位置する本市には多くの課題があり、特に学校教育においては、学力向上はもちろん、外国人増加に伴う日本語指導、いじめ・不登校・虐待への対応等、現代の教育的課題がほとんど存在し、しかも複雑化しています。その中で、本市は、外国語教育や学校人材派遣等の先進的な取り組みを行ってまいりました。人口50万人規模の松戸市だからこそ、派遣スタッフや特別支援教育補助教員等の様々な学校支援人材の確保ができ、県からの支援だけに頼らない市独自の体制を築けています。そこが、松戸市の強みでもあります。
今後も、各学校の課題解決を担い、強みをさらに伸ばしていける人材の確保と活用に努めてまいります。
教職員の働き方改革
さて、教職員の働き方改革が引き続き大きな社会問題となっており、今年度も新たな取り組みに着手します。
小中学校のICT環境をクラウド化し業務の効率化を図るとともに、USBメモリーを必要としない環境を構築し、セキュリティー面の向上にも資するようにします。
また、施設管理のソフト面の対策として、シルバー人材センターと連携した人材活用について、小学校3校で開錠施錠等の施設管理の方法について調査・研究をしてまいります。
更に、昨年度策定した「松戸市運動部活動の指針」の検証と見直しを図る一方、本年1月に策定した「松戸市文化部活動ガイドライン」とともに、各学校の効果的・効率的な運営に活かしながら、教員の業務負担軽減や、余裕ある指導、指導体制の整備などに努めてまいります。
これらに加え、全ての教職員を対象にしたストレスチェックも、今年度新たに実施します。
学校教育環境の整備・充実
学校教育環境のソフト部分につきましては、まず、子育て・教育のワンストップ型Safety Netとして、スクール・ソーシャル・ワーカー(SSWer)と訪問相談員を配置し、福祉的相談ができる第2の「ほっとステーション」を開設したいと考えています。そこを、保護者と子どもそれぞれの居場所とすることで、心の安定を目指します。
不登校対策では、訪問相談員の配置による不登校児童生徒への支援の充実を図るとともに、SSWerを市教委と中学校3校に常駐させ、配置校を拠点として近隣の小中学校に活動範囲を広げながら、児童生徒を取り巻く環境への支援を図ります。
いじめ防止対策については、いじめを生まない豊かな心の育成を図るため、「豊かな人間関係づくり」プログラムの活用を促進するとともに、未然防止、早期発見、早期対応、継続支援を柱として、「学校いじめ防止基本方針」に基づき組織的な取り組みを更に推進してまいります。
次に、学校教育環境のハード部分に関してです。
隣接する東部小学校と第五中学校では、立地条件を活かし、プールやグラウンドを両校で一体的に使用できる方策を考え、更にグラウンドは地域の方の利用も視野に、「(仮称)東部学園」構想に繋がるような整備をしてまいります。また、東部小学校の体育館は、老朽化のため建て替えが必要であり、まず耐力度調査を行う予定です。
小中学校の体育館は災害時の避難所になっており、早急にトイレを洋式化する必要があるため、リース方式で令和2年度から順次整備を行ってまいります。一方、校舎にあるトイレは、小中学校17校で設計委託を行い、令和3年度以降の工事着手を予定しています。
昨年の夏は、松飛台第二小学校でプールが使えなくなり、大変ご迷惑をおかけいたしました。令和2年度は、その松飛台第二小学校と小金小学校の2校で、民間プールの利用と併せて水泳の指導を委託する予定です。また、その他の小中学校に関しましても、周辺の学校との共同利用や民間事業者への委託など有効な手法について、調査研究をしてまいります。
知の拠点づくり
続いて、生涯学習分野について、お話しをいたします。
松戸市の文化力を高める構想として、知の拠点・文化の拠点・スポーツの拠点という三つの拠点を考えています。
まず、知の拠点である図書館では、「松戸市図書館整備計画」に基づき、図書館ネットワークの整備を進めています。全ての市民が利用できる「場」を提供し、「学び」を通じた人と人との繋がりが生まれる地域コミュニティの交差点としても、機能の充実や強化を図っていきます。
令和元年11月に、明市民センターの移転に伴い明分館がオープンしました。図書館分館と市民センターのフリースペースが隣接しているため、多世代が集い、図書館の利用者同士が本を通じて交流できる場として活用されています。また、キッズスペースや授乳室が完備されていることを活かし、図書館が育成した市民ボランティアが定期的に絵本の読み聞かせを行うなど、親子の居場所としても過ごしやすい環境となっています。今後も、“日常生活圏内にある身近な図書館”という特長を活かしながら、分館の整備を進めてまいります。
また、令和3年度オープン予定の、「(仮称)東松戸地域館」の建設工事が始まります。ここでは、住民説明会やワークショップでいただいた意見を反映させ、課題解決支援や地域交流機能等を備えた地域の中核となる図書館を実現できるよう、準備を進めてまいります。
令和2年度は、子ども読書推進センターが開館10周年をむかえる節目の年となります。全ての子どもたちが「いつでも、どこでも、読書できる環境」を整え、子どもが主体的に読書活動のできる体制作りを目指した、「松戸市子どもの読書活動推進計画」を策定し、子どもの読書活動の更なる充実を目指します。
生涯学習の推進
幼児教育・家庭教育の向上として、市長部局との連携を更に深めたいと考えています。
乳幼児をもつ保護者を対象として、「まつどっ子 未来のために今」を引き続き、配付します。乳幼児期における家庭教育の重要性への理解を深めるため、保育園・幼稚園・小学校等の保護者や教員等を対象に、啓発パンフレットを活用した出前講座を実施します。これまで未実施の地区で家庭教育についての講演会を開催するほか、親子参加型の無料講演会を企画・開催し、家庭・地域における教育力の向上を図ります。
また、市民が積極的に文化芸術に触れる体験などをサポートするために、教員経験者を社会教育課、戸定歴史館、博物館に配置し、歴史や文化芸術に関心が持てるようにしてまいります。
青少年会館では、小中学生を対象に、夏休みや放課後に様々な体験や学習ができ、また学年や学校の範囲を超えた交流の機会ともなる居場所づくりを目指して、プログラムやイベントを実施します。更に、市内NPOをはじめ、日ごろ青少年会館を利用しているサークルや近隣の大学生等と連携を行うほか、市内高校生等の協力も得て、子ども同士だけでなく、大人や若者との世代間交流を図る機会を設けます。
市民の文化活動推進に向けましては、社会教育関係団体活動と市民を繋げるための松戸市生涯学習情報提供システム「まつどまなびぃネット」の利用促進を図ります。また、外国籍の市民に日本文化に触れていただく機会を提供するなど、全ての市民の学びの機会や活動を支援してまいります。
文化の拠点づくり
21世紀の森と広場に訪れる世代を超えた多くの市民に、文化・歴史に触れる機会を提供するため、21世紀の森と広場・森のホール21・博物館の3館連携による「千駄堀地区3館連携文化交流事業」を推進し、文化の拠点としてまいります。そのために、3館合同のガイドマップ、ガイドブック、ホームページなどを作成・発信するとともに、「江戸時代」を3館共通のテーマとして、参加型展示、講演会、イベントなどを実施します。
その一環で、企画展「(仮称)まつどと徳川将軍の御鹿狩(おししがり)」を開催します。江戸幕府の将軍による小金牧での4回の大規模な御鹿狩をふりかえる展示で、松戸の江戸時代に想いを馳せていただければと思います。
「(仮称)松戸のたからもの 松戸市所蔵美術作品展」では、松戸ゆかりの作家や千葉大学工学部及びその前身の東京高等工芸学校出身作家の作品を紹介します。また、小学生をターゲットに「手仕事」の面白さを体験してもらうワークショップや市出身・在住のアートディレクターがアートの楽しさを伝える講座等を開催いたします。
更に、戸定歴史館では、松戸徳川家伝来品を中心とした「(仮称)プリンセス・トクガワ 徳川家ゆかりの女性たち」の開催を予定しています。徳川家の女性たちの生活と教養を伝える収蔵資料を中心に展示し、当時の素晴らしい文化を伝えます。また、美術・音楽・食文化について地域の方々との連携や協力を進め、戸定が丘全体を活性化させていきます。
スポーツの拠点づくり
最後に、スポーツの拠点づくりについてです。
市民のスポーツの拠点となる松戸運動公園では、オリンピック・パラリンピック開催を見据え、陸上競技場第3種公認に伴う工事と、プールの改修工事を実施しています。また、オリンピック・パラリンピック終了後もその盛り上がりを冷まさないために、スポーツ推進員や総合型地域スポーツクラブと連携を図り、様々な競技を体験できるスポーツ教室やイベントを各地区で開催し、スポーツに携われる環境を整備します。更に、松戸ゆかりのオリンピック・パラリンピック出場選手に七草マラソンの参加や講演会等を依頼し、将来を担う子どもたちに体験談を伝えてもらうことで、市内からトップアスリートが生まれるきっかけづくりを行います。
スポーツ文化交流では、大韓民国大邱広域市に選手を派遣し「日韓親善中学生スポーツ大会」を開催し、両国の子どもたちの絆を深めます。
末文
以上、各施策についてお話しをいたしました。
以前、某企業の会長が「私たちは、未来に対し、今作っている社会に責任を持たねばならない」と仰っていました。私は未だにそのことばが頭から離れません。
教育という仕事は、常に未来を創る仕事です。「教育はみんなで」を合い言葉に、皆さんと松戸市の明るい未来を創るために努力を重ねていきたいと考えておりますので、市民の皆様をはじめ、議員各位のご支援を今後も賜りますようお願い申し上げまして、令和2年度の教育施策方針とさせていただきます。
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