平成22年度教育方針と主要施策
平成22年2月23日、松戸市議会3月定例会本会議で教育長が発表した教育方針と主要施策です。ダウンロード用PDFファイルをこのページの一番下に用意しました。
平成22年度教育方針と主要施策
平成22年度の教育施策方針について、述べさせていただきます。
現在、社会全体に漠然とした閉塞感が漂っているかのように見えます。教育もまた然りでございます。先行きの不透明感がそうさせているのではないかと思っておりますが、喩えてみますと、真冬のアラスカに冷蔵庫を売りに行くセールスマンのような気分に似ています。
しかし、そんな閉塞感にとらわれていても、少し視点をずらすだけで、視界が一変することがあります。「冷蔵庫は真冬のアラスカよりも暖かい」と気づいたとたん、冷蔵庫はカチカチに凍らせない保温器として売れる可能性が生まれるからであります。冷蔵庫を「低温に保つための箱」と思い込んでいるだけでは、これは見えにくい視点です。
こうした思い込みから離れ、今まで見えなかった可能性を少しでも広げようとするものが、22年度の教育施策の背景にある問題意識です。まだまだ掘り下げは足りませんが、この構えを基軸に教育行政を推進していく所存でございます。
最初に学校教育の重点を6項目にわたり、順次、ご説明させていただきます。
「ヤル気になればデキル」から「デキルからヤル気になる」へと学習活動を転換する。これが学校教育の一番目の重点でございます。
まず、本市の学力状況を申し上げますと、全国学力学習状況調査の平均正答率にあっては、小学校は4ポイント程度全国平均を上回り、中学校においては-4ポイント程度であったものが、ここ3年間で-1.5ポイント程度にまで上昇してまいりました。
これは、スタッフ派遣などをテコに、少人数指導を始めとする各学校のさまざまな創意と工夫が少しずつ実を結んできたためと考えております。この成果をより確かなものにしていくことが、次年度以降の中長期的課題の中心になると捉えております。
この課題を達成していくためには、まず学習動機の問題にまでさかのぼって、施策を講ずる必要があると考えております。学校教育に限らず、あらゆる学習活動の成否は学習の動機づけの如何にかかっているからでございます。
大人は励ます意味も込めて「ガンバレ、ヤレバデキル」と口を酸っぱくして言いますが、「ヤルゾ!」と決意しさえすれば、「ヤル気」が子どもに生まれるわけではありません。「ヤル気」が「行為」を引き起こすのではなく、やっているうちに「ヤル気」が後からついてくるのが学習の構造であるからです。
こうした学習のアイロニーな構造を踏まえ、「ヤル気になればいつでもデキル」と根拠なく思うレベルから、各学校のカリキュラム開発を強力に支援し、「デキルからヤル」「ヤルからデキル」へと転換させようとするものが「重点1」のねらいです。
同時にこのことは、イジメ、不登校、非行などが起きにくい学習風土やスポーツ・芸術文化活動の基盤を培っていくものと考えております。
この重点1を達成する切り口として、重点2、「5年間英語」の段階的導入を図ってまいります。
これは中学校で学習する3年分の英語を小学校5年生から中学校3年生までの5年間で学習させようとするものです。換言しますと、平成23年度から始まる小学校の「外国語活動」とは一線を画した本市独自の教育戦略でもあります。
誰もが期待に胸をふくらませて始まる英語学習ですが、学習を開始した2年後には中学校3年生のおよそ6割を超える生徒が英語に苦手意識を持つに至っております。この原因には諸説ありますが、その一つに授業の内容に比べて学習量が少ないという平凡な事実があります。
そこで3年分の学習を5年間で取り組むことにより、学習内容を減らすことなく、何度も繰り返しができる学習を展開し、新しい可能性を切り開こうとするものです。
このような角度から英語教育を見直すことは、全国的にもユニークな試みだと思っています。先行モデルがないだけに、悪戦苦闘することは予想されますが、「22年度の学校教育の最重点事項」としながら、年次を追うごとに充実させてまいる所存です。
次に重点3の「本市の実情に即した効果的な特別支援教育の推進」について申し上げます。重点3におきましても、「デキルからヤル」のサイクルをめざすことに変わりはありません。
特別支援教育にあっては、個々の子どもに視点をあてた個別の指導計画の充実がなにより大切になってきます。しかし、個別指導にとどまっているだけでは効果を上げることができません。「学級を越えた学び合い」や「社会体験の充実」が欠かせないからです。
そこで、通級など柔軟に対応できる情緒学級を増設しながら、個々の特性を伸ばしていく「多様なチャンネル」と「選択肢の枠組み」を工夫し、整備していく予定です。いわば、「デキルからヤルこと」を実現するため、「デキル場」を増設しようとするものであります。また同様の観点から、特別支援教育支援員を4名から8名に増員し、校内支援体制を強化してまいりたいと考えております。
次に重点の4番目、「安全・安心を糸口にした活力ある学校づくりの推進」についてご説明します。
学校施設のハードの整備、特に耐震工事は、IS値0.3未満のものは22年度までにほぼ完了できる見通しです。その他の改修につきましても計画に従って粛々と進めてまいります。
学校の安全・安心を確保するには、こうしたハードの整備とともにヒューマンエラーを防ぐことが何より肝要です。大勢の子どもたちが生活する学校では、時として「ヒヤリ」「ハット」する場面があります。こうした場面を少なくとも10%は減らしていく所存でございます。
かかる目標を達成していくため、「誰でも」「今すぐに」「手っ取り早く」できるQC(quality control)的な改善に取り組みながら、若手職員の職能開発に努め、学校の活性化へつなげてまいります。
重点5は「ICTの活用による校務の効率化と教育環境の整備」でございます。
学習支援ツールとしてのICT環境が大幅に整備されますので、学習活動の改善に大いに活用してまいります。
かかるICT整備の効果を下支えするため、当面、市教委といたしましては、中学校通知票の電子化を皮切りに、各学校の成績管理を始めとする教務事務の改善に全力を傾注してまいります。こうした事務の効率化を図ることによって、教員が子どもに向き合う時間を少しでも増やそうと考えているからでございます。
更にはこうした取り組みを通し、子どもたちが自分の学習状況を自分で管理するセルフモニタリングの導入、これからますます期待されるプレゼンテーション能力の育成、「マインドマップ」や「言語技術」などの論理トレーニングへとつなげていきたいと考えております。
学校教育の最後になる重点6「個性や才能を伸ばす魅力ある市立高等学校の創造」について申し上げます。
市立松戸高校には市内中学生の10人に1人が進学します。この不況にもかかわらず就職や進学において、着実に実績をあげておりますが、普通科の受験資格が市内に限られる本校にあっては、他の公立高校に比べ、学力一つとっても振幅が大きくなり、長期的な経営戦略が立てにくい実情があります。
こうした条件を織り込みながら、成長戦略を展開していくためには、多様な選択コースと魅力あるカリキュラムを整えるとともに、なお一層市立高校生の士気を高めていくことが何より肝要だと判断しております。
このような観点から、本市の強みであるスポーツや文化芸術活動の成果を、さらに発展させることができる部活動などを計画的に支援してまいります。
次に、社会教育、芸術文化・スポーツに関する施策について、基本的な考え方を申し上げます。
「与えられた者は与え返さなければならない」という原理があります。ギブアンドテイクはその典型的なものですが、これは当事者間の関係を拘束するものではあっても、必ずしも「未来の自分」や「自分たちの子どもの世代」に責任を負うものではありません。
一方、「先人木を植え、後人木の下に憩う」と表現される関係があります。「先に木を植えた人」と「後に木の下で憩う人」との間にはギブアンドテイク的な義務関係はありませんが、「先人から与えられたものは後人に返す」というバトンタッチ型の新たなギブアンドテイク関係がそこにはあります。
これは、近年、環境倫理学などから注目されている考え方ですが、生涯学習の本質を言い当てたものだと捉えております。生涯にわたって学ぶ意義は、個人のキャリアアップの為だけではなく、学びの意義や意味を「後人」に伝えていくことにあると考えるからであります。
以下、このような考えをもとに、4つの重点について述べさせていただきます。
重点1は「家庭教育および地域の教育力の向上」です。
家庭教育や地域の教育力とは何か、必ずしも判然とはいたしませんが、本市のパイロットスクールにおいて提起いたしました「学ぶ姿を学ばせる」というコンセプトは、家庭や地域の教育力を具体的に表したバトンタッチ型学習モデルの一つではないかと思っております。
こうした学習モデルも含め、小金北中学校区と旭町中学校区に設けました学校支援地域本部事業を通し、「学校」「家庭」「地域」の望ましい連携のあり方について研究してまいります。
次に重点2として「市民の学習機会の充実」について申し上げます。
変化の激しい社会においては、たとえ豊かな経験を持っていても、それが却って変化に対応する妨げになることすらあります。こうした厳しい環境を考えますと、何度でも新たに挑戦できる機会と場の整備が、今までに増して大切になってくると認識しております。
そこで、公民館では「大学連携講座」「基礎学力再履修講座」「家庭教育学級」などの生涯学習講座をさらに充実させていくとともに、市民学習グループの育成にも力を注ぐなど、市民の自発的・自主的な学習を支援してまいります。
図書館にありましては、身近な生涯学習の中核的施設として、市民が必要とする資料や情報の提供に努めているところですが、市民自らの学びを支援していく役割も期待されております。そこで22年度は、新しく設立される「子ども読書推進センター」を中核に、子どもの読書活動普及を担うボランティアの育成や相談業務、情報収集などの機能を充実させてまいります。
3番目の重点、「豊かな芸術文化の創造と文化財の活用」について申し上げます。
昨年、戸定歴史館では千葉大学園芸学部100周年事業などとタイアップしながら、種々の展覧会を開催してきました。これを土台に、22年度におきましては、本市に寄贈されます「徳川慶喜家最後の家令を務めた古澤秀彌氏旧蔵資料」を用いた企画展を開催し、松戸の歴史を掘り下げていく予定です。
また博物館におきましても、同様の観点から紙敷所在の中峠遺跡発掘調査に長年尽力してきたことで知られる「故湯浅喜代治氏の考古遺物コレクション」を紹介する企画展などを実施していく予定です。
さらには、「生涯学習の機会」と「場」を提供する中心的な機能を果たすべき文化会館にありましては、開館してから16年が経過していますので、早急に大ホールの舞台設備を修繕し、利用者のサービス向上に努めてまいります。
最後の重点である「生涯スポーツの振興と施設活用の推進」について述べさせていただきます。
七草マラソン大会を見るまでもなく、本市の生涯スポーツの興隆には目を見張るものがあります。この傾向は一層顕著になるものと捉えております。
こうした需要に応えていくためには、市民の誰もが、いつでも、どこでも、いつまでもスポーツを行うことができる環境づくりを今まで以上に着実に整えていくことが喫緊の課題であると認識しております。
その整備の一環として、インターネットを活用した施設予約システムを、22年度から本格的に稼働させ、スポーツ施設活用の利便性の向上を図ります。
また地域スポーツの活性化を更に図るため、ご案内のように、本市最初の総合型地域スポーツクラブを小金原地区に立ち上げる予定でございます。これにより、本市のスポーツ活動の交流や指導者の育成などが大きく進展するものと期待しておるところでございます。
以上、22年度の教育施策について縷々述べさせていただきましたが、いずれも短兵急に成果があがるものとは考えておりません。プラモデルの組み立てとは異なり、教育や学習にあっては、絶えず作用と反作用が複雑に絡まり合い制御不能に陥ってしまう危うさが常にそこにはあるからです。
かかる混乱を回避するため、「選択と集中」をコンセプトに教育資源の「配分」と「配列」を中長期の時間軸のなかで絶えず見直し、時には撤退する勇気を持ちながら、着実に“カイゼン”を積み上げる所存であります。
もちろん、この考え方は「重点以外は何もしない」という意味ではありません。これらの重点を切り口にして、取り組んでいこうとするものであります。
教育の難しさを、「自動車を運転しながら、修理するような営み」に喩える例もありますが、脇見をして事故を起こさぬよう注意しながら進めてまいる所存でございます。
最後に、市民の皆様をはじめ、議員各位のご支援・ご協力をお願い申し上げ、平成22年度の「教育施策方針」とさせていただきます。
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